炎症性腸疾患とは
炎症性腸疾患の代表的なものに潰瘍性大腸炎とクローン病があります。この2つの疾患はともに免疫が関わって発症すると考えられていますが、原因がはっきりわかっておらず厚労省の難病指定を受けています。どちらも消化管に慢性的な炎症を起こして、症状がある活動期と症状のない寛解期を繰り返します。大きな違いは、潰瘍性大腸炎が主に大腸粘膜でびらんや浅い炎症を起こし、クローン病は口から肛門までの消化管全域に炎症を起こして炎症が深部に及ぶ傾向があるという部分です。これによって、クローン病は栄養障害を起こすことが多いため栄養療法が必要になるなど治療法が一部異なります。そのため、診断では正確な鑑別がとても重要です。
どちらも若い世代の発症が多い傾向がありますが、高齢者を含め幅広い世代が発症しています。炎症を鎮めて、寛解期にも適切な治療を続けることで、どちらの病気でも発症前に近い生活を送ることが可能です。ただし、寛解期に治療を続けないと悪化してぶり返してしまうため、症状がなくても定期的に受診して治療を続けることが重要です。
潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎の原因
はっきりとした原因はまだわかっていません。腸内細菌叢や食生活など様々な要因によって免疫がバランスを失い、自己免疫反応の異常が起こることで炎症を生じていると考えられています。
潰瘍性大腸炎と大腸がん
慢性的に炎症が続くことから、潰瘍性大腸炎の全大腸型で10年以上経過すると大腸がんリスクが大幅に上昇することがわかっています。粘膜の状態を調べて適切な治療を行うためにも、定期的な大腸カメラ検査は不可欠です。
潰瘍性大腸炎の症状
まず下痢が現れることが多く、少しずつお腹がゆるくなるといった印象を持つ方が多いようです。進行すると血便や腹痛、便意の頻発などを起こします。さらに進行すると、発熱、体重減少、貧血などを起こします。腸以外にも、皮膚や目、関節などに合併症を起こすこともあります。成長期の子どもが発症した場合、栄養の吸収が十分にできなくなって成長障害を起こす可能性があり、早期に適切な診断と治療が必要です。
潰瘍性大腸の治療
原因がわからないため完治に導くことはできませんが、炎症を抑える治療法によってよい状態を長く続けることが可能です。症状が治まる寛解期にもこうした治療を続けることで、寛解期を長く保ち、発症前の生活に近い状態で暮らすことも可能です。重要なのは、状態をしっかり検査で把握して、適切な治療を続けることです。
潰瘍性大腸における外科的治療
まれですが、外科治療が必要になる可能性はゼロではありません。例えば、潰瘍化して大量出血や穿孔を起こしているケース、ガスによって中毒を起こす巨大結腸症が疑われるケース、大腸がんなどです。また炎症が強い状態でステロイドを使えない場合にも手術が検討されます。
手術では大腸の全摘出が必要になることがあり、その際に問題になるのは肛門機能の温存です。できるだけ生活に不便が生じない手術のために、当院では連携した高度医療機関をご紹介しています。
クローン病
クローン病の原因
クローン病も潰瘍性大腸炎同様にはっきりとした原因はまだわかっていませんが、免疫細胞の異常反応によって起こることまではわかってきています。さらに、食事、病原体などの抗原侵入、遺伝的な要因、細菌やウイルス感染などが関与していると指摘されています。
クローン病の症状
腹部の軽い痛みがまず起こり、下痢や下血・血便を起こします。腸の炎症で狭窄が起きていると便が通過する際に強い痛みを起こすことがあります。また強い下痢を突然起こすこともあり、夜間に目覚めてしまうこともあります。発熱、栄養障害による体重減少なども現れやすい症状です。胆石や尿路結石、痔などの合併症を起こして気付くケースもあります。皮膚や目、関節に合併症を起こすこともあります。
クローン病の診断
血液検査、便検査、超音波検査、消化管造影、大腸カメラ検査などによって診断します。
血液検査で炎症の状態や栄養状態などを調べ、便検査で潜血の有無や感染性腸炎との鑑別を行い、超音波検査で特徴的な病変の有無を調べます。ただし、確定診断には消化管造影と大腸カメラ検査が不可欠です。大腸と小腸に特徴的な病変がないかを消化管造影で調べ、大腸カメラ検査では大腸の粘膜を直接観察して特徴的な病変の有無を確認し、組織を採取して病理検査を行います。また、炎症の範囲や状態を確認して、より適切な治療が可能になり、リスクが高い大腸がんの早期発見、前がん病変のポリープ切除による予防も可能です。
クローン病の治療
完治に導く根本的な治療法はありませんが、炎症を効果的に抑える治療が可能で、寛解期に導いてそれを長く保つことで発症前に近い生活を送ることも可能です。また症状が起きている際には栄養状態を改善する栄養療法も重要です。
また、食べると状態を悪化するきっかけとなる食材があり、その食材は患者様ごとに違います。そのため、食べても大丈夫な食材を見つけて、その上で悪化させる食材を絞る必要があります。また、食事に制限があることから栄養の偏りを起こしやすいので、食事内容に十分な注意が必要です。
クローン病では薬物療法を主に行い、症状が強く栄養補給が十分にできない場合には栄養療法を行います。食事療法など普段の生活習慣改善も重要です。状態が悪化した場合には手術が検討されることもあります。
栄養療法
症状がある時には安静を保ち、消化管から免疫反応を起こす物質を除去する必要があります。栄養療法は経腸栄養法と完全中心静脈栄養法があり、消化管の狭窄が強い、または広範囲に炎症がある場合に完全中心静脈栄養法が用いられます。経腸栄養法は、鼻腔から十二指腸にチューブを通して栄養を注入し、完全中心静脈栄養法はカテーテルで栄養を静脈に注入します。
経腸栄養法は、症状や状態、炎症の範囲などに合わせて、脂肪をほとんど含まない成分栄養剤、少量のタンパク質と脂肪含量がやや多い消化態栄養剤、カゼインや大豆タンパクを含む半消化態栄養剤などから適したものを用います。
薬物療法
炎症をできるだけ短期間に抑えて寛解期に導きます。寛解期には、よい状態をできるだけ長く続けられるよう治療を続け、発症前とそれほど変わらない生活ができるようサポートします。