過敏性腸症候群とは
腹痛や下痢・便秘、膨満感などの症状があって、血液検査や大腸カメラ検査では異常が確認できない病気です。炎症などの病変が確認できる器質的な原因ではなく、蠕動運動などの機能的な問題から発症していると考えられています。過敏性腸症候群は罹患者数が多い病気で、日本では10~20%に認められるとされています。発症は20~40歳代に多く、男性1に対して女性1.6と女性に多い傾向があります。
症状の出方によって、下痢型、便秘型、下痢と便秘を繰り返す混合型、膨満感などがあるその他に分けられます。男性は強い腹痛をきっかけに激しい下痢になる下痢型が多く、女性は強い腹痛や排便困難を伴う便秘型が多くなっています。
命に関わる病気ではありませんが、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を大きく低下させてしまう病気です。適切な治療を受けることで改善が可能ですので、できるだけ早くご相談ください。
過敏性腸症候群の原因
消化管の運動などの機能異常、または知覚過敏によって起こっていると考えられています。また、感染性腸炎の後で発症するケースが存在し、免疫異常が関係しているという指摘もあります。消化管の機能は自律神経がコントロールしているため、ストレスなどの影響を受けやすく、緊張などが発症の原因になることもよくあります。
過敏性腸症候群の症状
腹痛や腹部の不快感、そして便通異常が主な症状です。痛みを感じる場所には個人差があり、痛みの種類も急激に強い痛みが起こる場合から、鈍い痛みが長く続くケースもあります。急激な便意がある場合には、排便によって一時的に症状が改善します。食事内容や緊張などによって誘発されることも多く、大きな特徴として睡眠中には症状を起こさないことがあげられます。
消化器以外の症状では、頭痛、疲労感、抑うつ、不安感、集中力の欠如などを伴うこともあります。
下痢型
突然、強い腹痛があって、トイレに駆け込むと水っぽく激しい下痢になります。排便後は症状が一時的に改善します。突然強い便意が起こるため、通勤・通学、会議・打ち合わせ、テストなどに不安を感じやすく、外出できなくなるケースもあります。
便秘型
腸管の運動が亢進して収縮することで便秘になると考えられています。強くいきんでも小さくてコロコロした便が少量しか出ないなど、強い腹痛と排便困難を起こします。切れ痔やいぼ痔の発症リスクが高く、それにより悪化しやすくなります。
交代型
下痢と便秘を交互に繰り返します。便秘が下痢になって解消するといったパターンが続きます。切れ痔やいぼ痔の発症リスクが高い状態です。
その他
腹部膨満感、お腹が大きな音で鳴ってしまう腹鳴、無意識におならが漏れてしまうなどの症状を起こします。
過敏性腸症候群の検査と診断
似た症状を起こす疾患がたくさんあるため、まずは血液検査や大腸カメラ検査で炎症などの病変がないかを確かめる必要があります。特に、大腸がん、潰瘍性大腸炎、クローン病など、早期に適切な治療を受けることが重要な深刻な病気ではないかしっかり調べるために、消化器内科受診は大切です。
こうした疾患の有無を確かめるためには、血液生化学検査、尿検査、便潜血検査が一般的には行われていますが、大腸カメラ検査であれば粘膜の状態を直接確認でき、疑わしい部分の組織を採取して病理検査を行うことで確定診断も可能です。
当院では、検査経験豊富な医師が最新のシステムを用いて大腸カメラ検査を行うため苦痛が最小限に抑えられ、安全に精緻な検査を行うことができます。
こうした検査で炎症などの器質的な問題がない場合、過敏性腸症候群が疑われます。診断には、世界的に標準化されたRomeIII基準を用います。
RomeIIIの基準
過去3ヶ月間の症状を確認し、腹痛や腹部の不快感が月に3日以上繰り返し起こっていて、下記の条件の2つ以上に当てはまることを医師が確認した上で、過敏性腸症候群と診断します。
- 排便によって症状が緩和する
- 症状と共に排便の回数が増減する
- 症状と共に便の形状が変化する(水っぽい・ウサギの糞のように小さくてコロコロしていて硬いなど)
過敏性腸症候群の治療
症状に波があって、長期間繰り返し症状を起こすため、それを理解してじっくり、少しずつ改善しながら日常への支障を解消に導くことが重要です。生活習慣によって影響を受けやすいため、そうした要因をできるだけ排除することも不可欠です。
薬物療法で不快な症状を改善し、食生活を含む生活習慣改善によって発症リスクを下げ、心身医学的療法によって治療を効果的にサポートするなど、当院では患者様の症状やライフスタイルなどにきめ細かく合わせた治療を行っています。お悩みの点、ご不安がありましたら、どんな些細なことでも気軽にご相談ください。
生活習慣改善
過剰なアルコール摂取、刺激の強い香辛料、冷たい飲み物など、症状を悪化させる飲食物の摂取を控えます。状態や体質に合わせて、最適な食物繊維のとり方や望ましい食品についてもアドバイスしています。
不規則な生活、睡眠不足、疲労、ストレスなどを解消して、適度な運動を習慣化し、正しい排便習慣を身に付けましょう。
薬物療法
高分子重合体、消化管機能調節薬、乳酸菌、整腸薬、セロトニン受容体拮抗薬、止痢薬、緩下薬、鎮痙薬などを症状に合わせて処方します。作用機序の異なる薬剤の使用も検討します。効果の出方は個人差が大きいので、再診時にお話を伺いながら微調整して最適な処方に近づけます。また、抗不安薬、抗うつ薬などの処方により改善が見込めることもあります。